”三宮新港”
煌びやかな水族館やタワーマンションが並ぶ再開発エリアを抜けた先のこの倉庫は、大正15年の完成だ。
頭に掲げられた井桁マークは企業の威厳を誇っているようで、旧財閥の時代を思わせる。
KOBE Re:Public Art Projectと名付けられた今回のイベント。
パブリックにアートはある。という題で、アーティスト達が神戸の街で見つけたアートな光景を神戸の街で表現し、展示するという試みだ。
この巨大な倉庫に展示されている作品は5つだけ。
壁一面に飾られた神戸の人たちの顔。無機質なこの建物に表情を加えるようで面白い。しかし夕暮れ時、場末感あるこの立地では少し怖さもあってそのギャップがとても刺さった。
中に入る。
ツンと鼻を通るスパイスの香りは、かつてのここにインド方面から輸入されたスパイスを貯蔵していた名残だ。
「山、海へ行く」
ほとんど暗闇に支配された巨大倉庫の中に響くベルトコンベヤと砂の落ちる音。
六甲山の土を削ってニュータウンを造成し、その土で海を埋め立ててポートアイランドを作っていた、かつての神戸市は、こんなキャッチフレーズで開発を進めていた。
人間の営みのために地形をも変えてひたすらに開発を進めていた時代の勢いと不気味さを感じた。
かつてのクレーンや機材などがそのままにされている中央最も広い空間には電球が二つぶら下がっていた。
長く吊り下げられた電球は倉庫を抜ける海風でゆっくりと揺れる。
煙漂う暗闇の中の光に時を忘れて見入ってしまった。
おもむろにスタッフの方が電球を上の通路まで持ち上げたと思うと、両側からそれを放った。
そのまま勢いよく空間を滑る二つの光。
山から下りる人、海から登る人。
神戸の街でそれらが交差する瞬間のように見えた。
誰かの創作に触れた後の「よかったな」と一息つく時間が好き。
鼻の奥に残るスパイスの香り、目の奥の強烈な光の残像。
その時、近くで鳴った汽笛の音と共に、忘れられない記憶になった。